理性と感情の二律背反 / 欅坂46『アンビバレント』歌詞の意味と解説

欅坂46,歌詞解説・考察

今回は2018年8月15日、欅坂46の7枚目のシングルとして発売されました「アンビバレント」をご紹介していこうと思います!!

当ブログでも既に何度も紹介している欅坂46
従来のアイドルとは異なる独自の世界観や、グループとしての実力が作品を追う毎に増し、着々と人気になってきています。そんな彼女達のライブでも、常に上位人気を博している楽曲、「アンビバレント」。一体どのような楽曲なのでしょうか。

欅坂46

アンビバレントとは

今作のタイトル「アンビバレント」ですが、そもそもは心理学用語である「アンビバレンス(ambivalence)」が形容動詞として派生した「アンビバレント(ambivalent)」から名付けられていて、「相反する感情や考え方を同時に心に抱いているさま」を差しています。

例えば、ある人物に対して「好き」「嫌い」の正反対の2つの感情を同時に抱いている様子といったところですかね。
ここは良くて、ここはダメ!でも人としては嫌いになれないし、、、
といった、分かり易い言葉でいえば「曖昧」という言葉が意味合い的には近いかと思います!

さて、欅坂46の過去の作品を遡ってみると、タイトルから作品の世界観を理解する事は容易では無い印象でしたが、今作は割とテーマがはっきりと分かっていますし、楽曲・メロディ共に非常にキャッチーなので様々な方にも理解してもらいやすい曲なのではないでしょうか。まあしかし、良い意味で期待を裏切ってくれるのが欅坂46なので、そんな簡単な歌詞解説とはいかないと思いますが(笑)。

そんな「アンビバレント」、作詞は勿論秋元康が担当、作曲は同じ坂道グループ乃木坂46「Sing Out!」日向坂46「アザトカワイイ」を担当した浦島健太,TETTAが制作に携わっています。

また今回はMVにも注目しながら、皆さんの歌詞考察のお手伝いができればと思っています!!(まとめの部分でMVと併せた解説も行っています)

それでは「アンビバレント」の魅力、歌詞に秘められたメッセージを考察していこうと思います。皆さんも是非こちらの記事を参考に歌詞の意味を御自身なりに読み解いてみてください!!

揺れる2つの心

Ambivalent about
Ambivalent about
Ambivalent about
Ambivalent about

好きだというなら否定しない 嫌いと言われたって構わない
誰かの感情気にしてもしょうがない

他人に何を思われても 何を言われても聞く耳持たない
干渉なんかされたくない興味がない

Blah blah (hey!) Blah blah (hey!)
孤独なまま生きて行きたい

Blah blah (hey!) Blah blah (hey!)
だけど1人じゃ生きられない

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

曲の冒頭、“Ambivalent about"と意味深なフレーズの繰り返し。
一般的には「~に対して態度を決めかねている」と訳されますが、何か2つの事象の間で気持ちが揺れ動いている様子を表しています。ではその心揺さぶられる2つの事象とは何なのでしょうか。

先ほどのフレーズの直後に来るサビでは、そんな「アンビバレント」な心を表しています。人生を生きていく上で起こり得る人と人との繋がりが故の葛藤をテーマに、人生をどれだけ自分に正直に生きられるかを問う楽曲になっていると思います。

自分はこの人が好き、この人が嫌い。そして同じように自分も誰かに好かれ、嫌われているはず。そんな人間関係に気を配って、気を遣って生きていく、そんな今に嫌気が差し、馬鹿馬鹿しい(Blahは直訳すると馬鹿馬鹿しいの意)と歌っています。

こんなにも息苦しい現代社会でも、自分の想いを正直に曝け出すことは簡単ではありません。この楽曲では、繋がりを極端に嫌い、拒絶ともいえる姿勢を持って、「他人は他人、自分は自分」というスタンスで孤独に生きていきたい人を軸に進行していきます。

ですがそんなサビの最後。とても大事なキーワードが来ます。
“だけど一人じゃ生きられない"

そう。いくら強がっていても人は一人では生きていけない事。それを既に悟っているのです。この複雑な心の揺れがまさにアンビバレントだと言えます。

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僕は嫌だ!

ラブソングばかり流れるシーズン
マジ恋人いない聞くなリーズン
誰かは誰かを必要多分

世の中ロマンスで回ってる

ねえ 何をしたいの?

どこに行きたいの?
私だったら何もしたくない

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

そんな人と人との繋がりに苦悩する様子を、Aメロでは例を挙げて表現しています。

人同士の繋がり、その時の人の心情などを、曲として1番分かりやすく表現するには「ラブソング」はまさに打って付け。にもかかわらず、そんなラブソングばかり流れる世の中に辟易している主人公。
加えて孤独で生きていきたいと主人公は思っているわけですから、そんな所に恋人がいない理由を聞かれたらますます嫌気が差す気持ちも理解が出来ます。

それでも世間はラブソングロマンスで溢れ、会話の話題は恋愛トークが主流。
そんな世の中で生きていくには“誰かは誰かを必要多分"と、今の自分の考えが世間とはズレていると感じて(気付いて)いるのだと思います。

さらに“ねえ 何をしたいの?"“どこに行きたいの?"というフレーズからも、お互いを必要とし求め合う人々に疑問をもち、自問自答の末、自分には恋愛など必要ないと考えているようです。

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一人じゃいられない

誰かと一緒にいたって
ストレスだけ溜まってく
だけど一人じゃずっといられない

Ambivalent

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

誰かと過ごす時間というのは楽しい反面、相手の気持ちに寄り沿って過ごすこともあるため、時にはストレスを感じることもあるでしょう。
一度でもそう感じてしまうと、一人でいる時の気持ちの解放感や、人間関係における無駄なストレスも無い、自由気ままに楽に生きていける選択をしてしまうのも無理はないのかもしれません。

しかし同時に、当たり前のように誰かと暮らす生活を過ごしてきたからこそ感じる寂しさ、一人では生きてこれなかったという事実を踏まえた結果、人間は“だけど一人じゃずっといられない"、そういう生き物であると悟り、自身の心が揺れ動いているのだと、そんな様子がよく伺えます。

主人公にとっては、この悩みがいかに深く、簡単に決断を下すことの出来ない問題であるのがよく分かります。

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アンビバレントは尽きない

あっちを立てる気もないし こっちを立てる気だってまるでない
人間関係 面倒で及び腰
話を聞けば巻き込まれる
いいことなんか あるわけないじゃない
それでも誰かがいなけりゃダメなんだ

I know(hey!) I know(hey!)
ちゃんとしていなくちゃ愛せない
I know(hey!) I know(hey!)
ちゃんとしすぎてても愛せない

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

そんな感情を抱いたまま、1番サビに突入します。
そこで主人公は、冒頭サビとはまた違ったアンビバレントな感情に揺られています。
“あっちを立てる気もないし こっちを立てる気だってまるでない"とありますが、これはよくある人間関係の絡れではないでしょうか。

誰かの話を聞いて、それに対し、何かしらの意見をする。
話を聞く側からすれば、良かれと思った末の行動のようにも思えますが、中には「ただ話を聞いてもらうだけで良い」と、相手を否定して、中立な立場で正当性を訴えれば「一体どちらの味方なのか?」とも言われトラブルになるなんてことは良くあることではないでしょうか。

そんな面倒な人間関係も、日々を円滑に生きていくには必要不可欠であると分かっているからこそ“それでも誰かがいなけりゃダメなんだ"というアンビバレントな思いへと繋がってしまったのでしょう。

冒頭サビでは“Blah"となっていた部分が“I know"という表現へ変わり、ここまでに抱えてきた複雑な思いが、アンビバレントであるとは分かりつつ、どうしようもないのだという苦悩を、何度も繰り返す事で自分に強く言い聞かせているようにも思える表現です。

そして最後の“ちゃんとしていなくちゃ愛せない" “ちゃんとしすぎてても愛せない"のフレーズ。
今の自分が周りと同じような考え(=ちゃんとしている)でないと、きっと誰かには愛してもらえないことに気付く一方で、今の複雑な思いを抱えたままの自分では、そんな考えの誰かを自分は愛せないのだということにも同時に気付いたのではないでしょうか。

期待する夏

夏だから猫も杓子も猛ダッシュ
ハッシュタグつけた恋なんてごめん
太陽味方につけたような

よくいるタイプの単細胞

さあ 何を始める?
どんな会話する?
やりたいことは別にないけれど…

ずっと自分だけの世界に
引きこもっていたいのに…
青空の下で まだ無理をしなきゃいけないか

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

2番Aメロは「夏」という、四季の中でも明るい印象があり、海水浴やBBQなど楽しい気持ちにさせるイベントも盛りだくさんの男女の出会いなどを連想させる季節です。“夏だから猫も杓子も猛ダッシュ"という一節からも、誰も彼もが「夏」という季節に何かしらの期待し、胸を踊らせているのが分かります。

しかし主人公は、そんな季節に盛り上がる人々を“太陽味方につけたような" “よくいるタイプの単細胞"と揶揄し、チャラチャラ声をかけてくる男性達や、そんな恋愛に#(ハッシュタグ)をつけてSNSで自慢するような女性達を見下しているように考えられます。

そんな世間が嫌でしょうがない主人公は、やりたいことも特になければ自分の世界に引きこもっていたいというのが本音。ですが、結局は一人で居ることに寂しさを覚え、“青空の下でまだ無理をしなくちゃいけないか"と思うのでした。

2番ではこれまでの歌詞の中では見られなかった「…」という表現が使われ、そこには本当に伝えたいことや、自分の中でどんどん増してくる苦悩が深まっていくアンビバレントな感情が隠されているように考えられます。

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アンビバレントの正体


好きだというなら否定しない 嫌いと言われたって構わない
誰かの感情気にしてもしょうがない

他人に何を思われても 何を言われても聞く耳持たない
干渉なんかされたくない興味がない

Blah blah (hey!) Blah blah (hey!)
孤独なまま生きて行きたい

Blah blah (hey!) Blah blah (hey!)
だけど1人じゃ生きられない

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

OH WOW WOW WOW WOW WOW!!
OH WOW WOW WOW WOW WOW!!
OH WOW WOW WOW WOW WOW!!
OH WOW WOW WOW WOW WOW!!


Blah blah (hey!) Blah blah (hey!)
Blah blah (hey!) Blah blah (hey!)

願望は二律背反
押し付けの理性なんて信じない

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

2番サビは冒頭のサビと同じ歌詞となっています。
いくら悩んでも答えは見つからないまま、未だアンビバレントな感情に苛まれているのだと思われます。

またCメロ部分、MVの間奏部分(3:10前後)も併せて歌詞を見てみると、センターの平手友梨奈が湖に一人で佇み、その後地面に寝そべりながら身体を震わせる様子が伺えます。そしてその周りを“OH WOW~"と歌い、はしゃぐメンバーが映し出されます。その様子はまるで“太陽味方につけたようなよくいるタイプの単細胞"な人と、これまでそんな人々に嫌悪感を抱いてきた主人公の対比のようにも思えました。

そして最後のサビ前。
“願望は二律背反"との歌詞がありますが、これは「二つの相反する命題や推論が、同じだけの合理性・妥当性をもっていること」を意味します。簡単に言えば「二つの命題が互いに矛盾していること」になります。

つまり、これまでに挙げられた「孤独なまま生きて行きたい」「だけど1人じゃ生きられない」という願望「ちゃんとしていなくちゃ愛せない」「ちゃんとしすぎてても愛せない」といった対比がそもそも二律背反(矛盾)であることに、主人公は気が付いたのだと思います。

そして、これまで世間に半ば強引に押し付けられてきた理性から解放され、自分は理性とは反対の意味に位置づけられた感情を信じようとする主人公。
抱えてきたアンビバレント(理性と感情)の正体が分かった今、正面からそれらと向き合い、それに対する理性や折り合いは、自分自身が納得のいく答えが出せるまで受け入れはしないという強い意思が感じられます。

出した答え

あっちを立てる気もないし こっちを立てる気だってまるでない
人間関係 面倒で及び腰
話を聞けば巻き込まれる
いいことなんか あるわけないじゃない
それでも誰かがいなけりゃダメなんだ

I know(hey!) I know(hey!)
ちゃんとしていなくちゃ愛せない
I know(hey!) I know(hey!)
ちゃんとしすぎてても愛せない

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

一人になりたい なりたくない
一人になりたい なりたくない
Oh!Yeah! だけど孤独になりたくない
どうすればいいんだ この夏


Ambivalent about
Ambivalent about
Ambivalent about
Ambivalent about

出典: アンビバレント/作詞:秋元康 作曲:浦島健太,TETTA

その強い意思がある故に、世間と折り合いをうまくつけることが出来ず、最後のサビでも未だ繰り返されるアンビバレント。それでも最後には「一人になりたい」「なりたくない」「孤独になりたくない」理性や周りとの折り合いよりも、自分の感情そのままに畳み掛けるように吐き出されます。以前よりも少し強くなれた主人公の姿が目に浮かびます。

しかしそれでもこれまでの苦悩が解決されることは無く、最後の最後まで“Ambivalent about"のフレーズが繰り返され、主人公は悩みを抱え続けたまま、この曲は幕を閉じるのでした。

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MV感想とまとめ

さて、いかがだったでしょうか。
アンビバレントの正体は分からずじまいでしたが、人それぞれ抱えている不安や闇は違うものです。だからこそあえて結論は出さず、問題提起をするまででこの曲を終わらせたのではないかと個人的には感じました。

そんな「アンビバレント」本編MVでは、黒と白、まるで理性と感情の対比を表現したかのような衣装が印象的でした。またセンターの平手友梨奈さんが、終始上が白、下が黒という衣装に対し、他のメンバーは上下ともに白の衣装を着ているのですが、曲が進むにつれてその衣装が浸食されていくというような演出がなされます。

初めは一匹狼のような扱いだった主人公の考えが、懸命な訴えによって、少しずつ周りの考えや価値観を変えていった様子を表現しているように思えました。
また欅坂46らしい、激しくも繊細なダンスパフォーマンスも圧巻。非常に見応えのある作品になってますので、僕のこの歌詞解説と併せて御覧頂けると幸いです!!

長くなりましたが今記事をご覧頂いた皆様、ありがとうございました!!